2020年2月より開始した被服支廠周辺にお住まいの方達などとの対話から、ヒアリング調査報告を作成しました。
目次
第1章 ヒアリング調査に至る経緯
1 「被服廠の話を聞き隊」の発足に至る経緯
2 ヒアリング調査の概要(調査の趣旨、調査方法:対象者、実施期間)
第2章 被服支廠の近隣に暮らす人の声
1 あたりまえの風景から、どうして突然?
2 町内のなかでのギャップと躊躇い
3 溢れ出すエピソード
第3章 被服支廠のこれから
1 これからも近くに住む者として
2 被服支廠のこれからを考える
おわりに
第3章 被服支廠のこれから
2 被服支廠のこれからを考える
今回の調査は、一部の住民の好意的な協力のもと、あくまで一市民であるわたしたちが聞くことができた思いであり、近隣すべての住民の総意ではない。これを前提とした上で、わたしたちなりに被服支廠のこれからをまとめたいと思った。しかし、年齢層やこの地域への居住歴も異なる多様な声をまとめることは非常に難しい。報告書にすべてを記すことができなかったが、その声に向き合いながら、これから必要なことを考えてみたい。
まずは、被服支廠の今日に至るまでの情報があまり知られていない。同時に、歴史や建築などさまざまな観点から重要性が指摘されているがそれらについてもあまり知られていない。被服支廠について歴史的経緯から現在進行中の議論まで情報を集約して様々なツールを使って発信していくことが必要だ。また、近隣に暮らす人にも関心を高めて愛着を醸成していくために敷地内を公開する行事や専門家を招いた講演会などの催しができるといい。耐震工事の進行プロセスにおいても人数を限定してヘルメット着用など安全面を考慮の上で見学会ができると理想である。
つぎに、被服支廠は、平和教育の場や観光資源としての活用が期待できる。一方で、閑静な住宅地、県立学校に隣接しており近隣住民にとって生活の場でもある。周辺の地域コミュニティーは時代の流れにそって希薄化が生じ、町内会などで合意形成を図っていくことは困難であるが、建物の保存や利活用を検討するにあたり近隣住民の理解や協力は不可欠である。丁寧な説明が受けられる場が今後は必要である。
今後、「利活用」についての議論が活発化すると思われる。しかし、被服支廠のこれからを考える上で忘れてはいけないことがある。それは、現在の被服支廠は「廣島」「ヒロシマ」「広島」を語る上で、すでに価値ある建物である、ということだ。「全棟を保存する意味は」「原爆ドームとの違いとは」など疑問の声があがるように、認知されているとは言い難いこの価値ある建物を、どのような手段で知ってもらうかという議論が重要であると同時に、地域住民にも愛され、国内外に向けて発信できる更なる価値を付けるための手段である「利活用」を、所有者の県だけでなく、まちづくり・観光・教育・平和など様々な分野と幅広い年代との連携をもって丁寧に議論したい。さらに、継続的に保存活用していくために必要な経費については行政だけでなく民間も参画して、多角的な議論を重ねていけるといい。
戦後75年をこえて原爆を体験した当事者がいなくなろうとするなか、ますます重要な存在になるはずである世界最大級の被爆建物をどう捉えてどう残すのか、人類史上経験したことがないプロジェクトである。そのプロセスに価値があるはずで、世界に誇れる広島の事例にしたい。世代を超えて県内外の人を巻き込みながら対話を重ね、わたしたちが暮らす広島の未来を考えていきたい。